相続税コラム

「相続人がいない」と、財産はどこへ行く?
知っておきたい”相続人不存在”の話

「自分が先に亡くなったとき、財産は妹に渡るようにしておきたい」

独身で子どものいない方から、こんなご相談をよくいただきます。

でも実は、遺言書の書き方や、そのあとの状況によっては、渡すつもりだった財産が最終的に「国のもの」になってしまうことがあります。

今回は、ご相談にいらっしゃった近藤さん(仮名)のケースをもとに、「相続人不存在」とはどういう状態か、そして財産がどこへ行くのかをわかりやすく解説します。

📖 事例

近藤さんのお母様は高齢ですが健在。近藤さんには未婚の妹が一人おり、二人とも配偶者も子どももいません。

ご相談にいらっしゃったのは近藤さんご本人。
「自分が先に亡くなったとき、妹に全財産を渡したい。遺言書を書けばいいですよね?」とのことでした。

確かに、遺言書で妹に財産を渡す旨を書いておけば、配偶者や子がいない場合でも安心です。

ところが、よく聞いてみると、妹も同じように「近藤さんに先立たれたときのために」遺言書を書こうとしていることがわかりました。

「では、もしその妹が先に亡くなっていたら、近藤さんの財産はどうなるのでしょう…?」

1
遺言書に書いた相手が先に亡くなっていたら?

遺言書で「妹に財産を渡す」と書いてあっても、その妹が先に亡くなっていた場合、その遺贈は効力を失います

では、法定相続人はいるのでしょうか。

配偶者も子もいない場合、法定相続人になれるのは「直系尊属(親)」です。しかし、お母様もすでに亡くなっていたとしたら、法定相続人が誰もいない状態、すなわち「相続人不存在」となります。

法定相続人の順位(配偶者がいない場合)

  • 第1順位:子・孫…子どもや孫がいれば最優先で相続人になります
  • 第2順位:父母・祖父母…子がいない場合、存命の親や祖父母が相続人になります
  • 第3順位:兄弟姉妹・甥姪…第1・第2順位がいない場合に兄弟姉妹や甥姪が相続人に

近藤さんのケースでは、子・親・兄弟姉妹がいずれもいなくなった場合、相続人が誰もいない「相続人不存在」という状態になってしまいます。

2
「相続人不存在」になると、財産はどうなる?

相続人が誰もいない場合、財産はすぐに国に渡るわけではありません。家庭裁判所によって「相続財産清算人」が選任され、長い時間をかけて財産が整理されていきます。

手続きの全体像はこうなります。

相続財産清算人の選任(家庭裁判所)

利害関係人(債権者など)や検察官が申立て。選任の際は予納金(数十万円程度)が必要なことも。

相続人捜索の公告(6か月以上)

官報に公告し「本当に相続人はいないか」を公示。期間内に誰も名乗り出なければ相続人不存在が確定。

特別縁故者への財産分与(3か月以内に申立て)

故人と生計を共にしていた人、療養看護に尽くした人などが「特別縁故者」として財産分与を申立てできる。

残余財産が国庫へ帰属

特別縁故者への分与後もなお財産が残れば、最終的にすべて国のものになる。全体の手続きは1年前後かかることも。

この一連の手続きには相当な時間と費用がかかります。そして最終的に、誰にも渡らなかった財産はすべて国に納められることになります。

3
財産を「国庫に渡したくない」ときの備え

「自分の財産を、お世話になった人や支援したい団体に渡したい」
そう思うのであれば、生前の備えがとても大切です。

遺言書があれば、法定相続人がいない場合でも、特定の人や団体に財産を渡すことができます。遺言書がない場合には、特別縁故者への分与の手続きを経るか、最終的に国庫帰属となってしまいます。

たとえば、こんな想いも遺言書で実現できます。

遺言書があれば、想いのある相手に財産を届けられる

  • 長年お世話になった友人や知人に感謝の気持ちとともに渡したい
  • 介護や療養でお世話になった施設へ感謝を形にしたい
  • 応援したい団体・NPO・社会福祉法人などに寄付として役立ててほしい

✗ 遺言書がない場合

相続人がいなければ国庫へ
特別縁故者の手続きは複雑
渡したい相手に届かないことも

✓ 遺言書がある場合

指定した相手に財産を渡せる
団体・法人への寄付も可能
相続人不存在を防ぐ最善策

また、遺言書を書く際には「受遺者(財産を受け取る相手)が先に亡くなっていた場合の予備的な指定」をしておくことも重要です。近藤さんのようなケースでは、「妹に渡す。妹が先に死亡していた場合は○○に渡す」という書き方が有効です。

⚠️ 遺言書は書き方を一つ間違えると、意図した通りに財産が渡らないこともあります。「書いたから安心」ではなく、内容の確認と定期的な見直しが大切です。

4
近藤さんのその後

近藤さんには、まず現状の相続人の構成と、各自が亡くなったときの財産の流れを整理してお伝えしました。

「妹に渡す」という遺言書だけでは不十分な場合があることを理解いただき、「妹が先に亡くなっていた場合は、長年お世話になった施設に寄付したい」という予備的な指定も加えた遺言書を作成することに。

「まさかそんなことまで考えなくちゃいけないとは思わなかった。でも、これで安心できます」とおっしゃっていました。

相続の備えは、「誰かに渡す」と決めるだけでなく、「その人がいなかった場合はどうするか」まで考えて初めて完成します。

📋 まとめ

  • 配偶者・子・親・兄弟姉妹のいずれもいない場合、「相続人不存在」となります
  • 相続人不存在の財産は、複雑な手続きを経て最終的に国庫へ帰属します
  • 遺言書があれば、お世話になった人・友人・支援したい団体など、想いのある相手に財産を届けることができます
  • 遺言書には「受遺者が先に亡くなっていた場合の予備的指定」も入れておくと、より安心です。

★ 「大切な財産を、想いのある人に渡したい」と思ったら、まずご相談ください

お世話になった方への感謝、支援したい団体への寄付——遺言書があれば、その想いを形にすることができます。
お一人おひとりの状況に合わせて、一緒に最善の備えを考えましょう。

👩

たかやまあゆみ税理士事務所 女性相続support

税理士 たかやまあゆみ

相続専門の税理士として、相続・事業承継をサポート。「難しい税務をわかりやすく」をモットーに、多くのご家族の相続に寄り添っています。