
相続コラム
家族信託で認知症対策!
成年後見制度と何が違う?相続税への影響は?
「親が最近物忘れをするようになってきた。もし認知症になったら、実家や預金はいったいどうなるんだろう…」
このようなご不安を抱えてご相談にいらっしゃる方は、近年とても多いのです。
認知症になってから動こうとしても、すでに手遅れになってしまっていた、というケースが少なくありません。大切なのは、ご判断能力がある「元気なうち」に対策をおこなうことです。
今回は、ご相談にいらっしゃった山田さんご一家の事例をもとに、「家族信託」と「成年後見制度」の違い、そして相続税・贈与税への影響について、わかりやすく解説します。
山田さん(60代・女性)のお父様(80代)は、最近物忘れが目立つようになり、かかりつけ医から「認知症の入口にさしかかっている」と告げられました。お父様は自宅のほかに賃貸アパートを1棟所有しており、その管理は今もご自身でされています。
「もし認知症と正式に診断されたら、アパートの管理や修繕の契約はどうなるの?銀行のお金も引き出せなくなると聞いたけど本当?」
「成年後見という制度があるとは知っているけれど、家族信託とどう違うの?」
このように複数のご不安を抱えていた山田さん。まずは「認知症になるとどんなことが起こるか」から丁寧に整理しました。
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認知症になると、財産が「凍結」される
日本では、ご判断能力を失ってしまった方は、法律上「有効な契約を結ぶことができない」とされています。これが、財産凍結と呼ばれる問題の根本です。
具体的には、次のようなことが起こります。
認知症になると困ること
- ✦銀行が大口の引き出しや手続きを停止する
- ✦不動産の売却・賃貸借契約の締結・リフォーム工事の発注ができなくなる
- ✦施設への入居費用を捻出するための財産処分もできなくなる
- ✦生前贈与や遺言書の作成も、判断能力があるうちでないと有効にできない
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成年後見制度とは? 確実だが「制約」も多い
成年後見制度は、判断能力が不十分になった方を法律的に守るために、家庭裁判所が「後見人」を選んで財産管理や手続きをサポートする公的な制度です。
制度として信頼性は高く、法的な手続きがしっかりと保障される反面、実際に使ってみると「思っていたより自由が利かない」と感じる方が少なくないようです。
成年後見制度の主な特徴
- ✦後見人は家庭裁判所が選ぶため、弁護士や司法書士などの専門職が選任されることも多い
- ✦財産の「保護・維持」が目的のため、積極的な資産運用や組み替えは原則できない
- ✦毎年、裁判所への報告義務があり、手間とコストが継続的にかかる
- ✦本人が亡くなるまで原則として終了できない(途中で「やっぱりやめたい」はできない)
「裁判所が関与してくれるから安心」という側面もありますが、家族の意向よりも「本人の財産保護」が優先されるため、柔軟な対応が取りにくいのが実情です。
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家族信託って?? 成年後見と何が違うの?
家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、判断能力のあるうちに、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せる仕組みです。
たとえば「父が委託者、長女が受託者、父が受益者(財産の利益を受ける人)」という形で設計します。長女は信託契約に基づいて、父が認知症になった後もアパートの管理や修繕の発注、家賃の受領などを継続して行うことができます。
成年後見制度
・認知症になってから申立てを開始
・家庭裁判所が後見人を選任する
・財産保護が目的で自由度が低い
・専門職後見人はコストが継続発生
・原則、亡くなるまで続く
家族信託
・元気なうちに契約を締結しておく
・信頼できる家族が受託者になれる
・目的に応じた柔軟な管理・処分が可能
・裁判所への定期報告は不要
・内容を自分たちで設計できる
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相続税・贈与税への影響はどうなるの?
「家族信託をすると、その時点で贈与税がかかるのでは?」というご質問をよくいただきます。
結論からお伝えすると、委託者と受益者が同一人物(たとえば父が財産を信託して、その利益も父が受け取る形)であれば、信託設定時に贈与税は原則かかりません。名義は受託者(長女)に移りますが、経済的利益はあくまで父のもとに残っているためです。
税務上の主なポイント
- ✦委託者=受益者の場合、信託設定時の贈与税は原則かからない
- ✦委託者(父)が亡くなった時点で、通常の相続と同様に相続税の課税対象になる
- ✦受益者を段階的に変更していく「受益者連続型信託」の場合は、別途税務上の検討が必要
- ✦家族信託そのものには節税効果はない。相続税対策は別途、生前贈与や保険などを組み合わせて検討する必要がある
家族信託は「財産の凍結を防ぐ仕組み」であり、節税ツールではありません。この点を正しく理解した上で、相続税対策と組み合わせて設計することが重要です。
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山田さんが取り組んだ対策
ご家族の状況と財産の内容を整理した上で、山田さんには次の対策をご提案しました。
家族信託契約の設計・締結
お父様を委託者兼受益者、長女(山田さん)を受託者として信託契約を締結。アパートの管理・修繕・将来的な売却の権限を長女に付与することで、認知症後も不動産経営が止まらない体制を整えた。
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相続税対策は別途計画
家族信託と並行して、生前贈与や生命保険の活用など、相続税の負担を軽減するための対策を別途検討。信託設定後も柔軟に対策を組み込める形に設計した。
「認知症になったらどうしようと漠然と不安だったけれど、こんなに整理できるとは思わなかった」と、山田さんにはとても安心していただけました。
大切なのは、まだ動ける「今」に備えること。判断能力があるうちにしか設計できない対策があります。
📋 まとめ
- ✦認知症になると財産が凍結され、不動産の管理・売却も銀行手続きもできなくなります
- ✦成年後見制度は確実性が高い反面、自由度が低く費用も継続的にかかります
- ✦家族信託は元気なうちに設計でき、柔軟な財産管理が可能です。
- ✦家族信託の設定時に贈与税は原則かかりませんが、相続税は通常通り発生します。節税効果はありません
- ✦認知症対策は「判断能力があるうち」にしか備えられません。早めの相談が家族を守ります。
★ 「そろそろ備えておかないと…」と思ったら
家族信託・成年後見・相続税対策は、早めに整理するほど選択肢が広がります。
「うちの場合はどうすればいいの?」と感じたら、まずはお気軽にご相談ください。
たかやまあゆみ税理士事務所 女性相続support
税理士 たかやまあゆみ (相続専門の税理士 港区)
相続専門の税理士として、相続・事業承継をサポート。「難しい税務をわかりやすく」をモットーに、多くのご家族の相続に寄り添っています。