
相続コラム
【相続人が海外在住のケース】
「子どもが海外に住んでいるのですが、相続のときはどうなるのでしょうか。書類の集め方もわからなくて…」
このようなご相談が、以前と比べてずいぶん増えています。仕事や留学をきっかけに海外に移住される方が多く、いざ相続が発生したときに「どう動けばいいかわからない」と慌てていらっしゃるご家族は少なくありません。
相続人が海外にいても、相続における権利は国内にいるときと同じです。ただ、手続き国内だけのケースとは異なる部分があり、準備に時間がかかるという特徴があります。
今回は、ご相談にいらっしゃった中村さんのケースをもとに、海外在住の相続人がいる場合の手続きのポイントとよくあるつまずきについて、わかりやすく解説します。
中村さん(70代・女性)のご主人が亡くなられ、相続手続きを進めようとしたところ、長男がカナダに在住していることが問題になりました。日本にいる次男とは連絡を取りながら話し合いが進んでいたものの、長男については「何の書類が必要なのか」「どうやって署名してもらうのか」がわからず、困惑してご相談にいらっしゃいました。
海外にいても相続はできるとは聞いていたものの、具体的に何をすればよいのかが見えず、申告の期限だけが迫っているような感覚で焦っていらっしゃったそうです。
こうした状況は決して珍しくありません。海外在住の相続人がいる場合に何が必要かを事前に知っておくだけで、手続き全体がずいぶんスムーズになります。
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海外在住の相続人がいると、何が問題になるのか
相続人が海外に住んでいても、相続の権利は日本にいる場合と変わりません。遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い)にも参加する必要がありますし、分割した内容をまとめた遺産分割協議書にも署名が必要です。
手続き上のポイントになるのは「書類」です。国内では印鑑証明書や住民票を使って本人確認や意思確認を行いますが、海外在住者はこれらを取得できません。代わりの書類を現地の在外公館(日本大使館・領事館)で取得する必要があり、これに時間がかかることが多いのです。
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必要になる書類が変わる
海外在住の相続人が準備する書類は、日本の相続手続きで一般的に使われるものの「代替」となるものです。主に以下の二つを現地の在外公館で取得します。
在外公館で取得する主な書類
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サイン証明(署名証明) 印鑑証明の代わりとなる書類。在外公館の係官の前で遺産分割協議書にサインし、そのサインが本人のものであることを証明してもらいます。日本の印鑑証明の代わりとして利用されます。 -
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在留証明 住民票の代わりとなる書類。現地に一定期間以上居住していることを証明するもので、不動産の相続登記などで必要になります。取得には、居住実態を示す書類(賃貸契約書、公共料金の請求書など)を持参する必要があります。
サイン証明を受けるには、係官の前で実際に署名する必要があるため、遺産分割協議書を仕上げてから在外公館に持参することになります。協議書の内容が決まっていない段階では手続きが進められないため、相続人間での話し合いをなるべく早く進めておくことが重要です。
また、相続手続きの件数(銀行口座の解約・登記が必要な不動産の件数など)に応じて必要な通数が変わります。後から追加で取得しに行くのは大変なので、最初から少し多めに取得しておくと安心です。
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相続税はどこで・何に対してかかるのか
海外在住の相続人がいると、「相続税は日本と海外、どちらにかかるのか」というご質問をよくいただきます。これは、相続人やお亡くなりになった方の住所や国籍、過去の居住期間などによって決められています。
相続税の課税範囲のイメージ
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国内に住所がある場合(または過去一定期間内に住んでいた場合) ほとんどのケースで世界中のすべての財産(国内・海外を問わず)が日本の相続税の対象になります。 -
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被相続人・相続人ともに長期間海外に居住している場合(国内に住所が無い場合) 日本国内の財産のみが日本の相続税の対象になります。
ご注意いただきたいのは、「海外に住んでいるから日本の相続税はかからない」とは一概に言えないという点です。過去にどれくらい日本に住んでいたかによって判定が変わるため、専門家に確認することをおすすめします。
また、相手国でも相続税や遺産税がかかる場合があります。同じ財産に二重で税がかかる場合には、「外国税額控除」という仕組みで一定の調整ができます。
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今からできること
「相続が発生してから動き始めたのでは遅い」というのが、国際相続の特徴です。海外とのやり取りは時差や郵送期間があり、どうしても時間がかかります。元気なうちに準備を整えておくことが、ご家族への最大の配慮になります。
家族の状況を整理・共有しておく
相続人となるご家族が現在どの国に住んでいるか、日本の住民登録はあるかなどを把握しておきましょう。また、相続が発生した際に誰がどう動くかを家族で話し合っておくと、いざというときに慌てずにすみます。
遺言書を作成しておく
遺言書があれば、遺産分割協議を省略できるケースがあります。海外在住の相続人がいる場合、遺産分割協議書の作成・署名・書類の取得には特に時間がかかるため、遺言書による準備は大きな効果を発揮します。特に「誰に何を渡すか」を明確にしておくと、ご家族の負担を大幅に軽減できます。
早めに専門家に相談する
国際相続は、課税関係の判定や必要書類の確認など、通常の相続以上に確認すべき点が多くあります。相続が発生してから調べ始めると申告期限に間に合わないケースもあるため、「まだ先の話」と思わずに、早めに一度ご相談いただくことをおすすめします。
中村さんのケースでも、在外公館でのサイン証明の取得方法をご長男に事前に案内し、協議書の草案を早めにご用意することで、申告期限内に手続きをスムーズに完了することができました。
📋 まとめ
- ✦海外在住でも相続権は国内と同じ。ただし書類の準備方法が変わります
- ✦印鑑証明の代わりに「サイン証明」、住民票の代わりに「在留証明」を在外公館で取得します
- ✦相続税の課税範囲は、被相続人・相続人それぞれの住所や国籍などによって異なります
- ✦国際相続は時間がかかりやすい。遺言書の準備と早めの専門家への相談が、ご家族への最大の備えになります。
★ 「相続人に海外在住の家族がいる」という方へ
どんな書類が必要か、相続税の課税関係はどうなるか、今から何を準備しておけばいいか、一緒に整理しましょう。
「まず状況を確認したい」というご相談も、どうぞお気軽にお問い合わせください。
たかやまあゆみ税理士事務所 女性相続support
税理士 たかやまあゆみ(相続専門の税理士 港区)
相続専門の税理士として、相続・事業承継をサポート。「難しい税務をわかりやすく」をモットーに、多くのご家族の相続に寄り添っています。