
相続税コラム
「配偶者なら1億6千万円まで無税」は
本当にお得? 知らないと怖い落とし穴
「夫の財産は全部妻に相続させれば、相続税はかからないでしょ?」
こうおっしゃるご家族は、本当に多いのです。
たしかに「配偶者の税額軽減」という制度があり、配偶者が相続する財産は1億6千万円まで相続税がかかりません。
でも実は、この制度を「使いすぎる」ことで、あとから大きな負担が生まれるケースがあります。今回は、ご相談にいらっしゃった松本さんご家族の事例をもとに、わかりやすく解説します。
松本さんのお父様が昨年秋に亡くなりました。相続人はお母様と、成人した松本さん(長女)・弟の3人。残された財産は自宅と預貯金を合わせて約8,000万円です。
「お母さんがこれからひとりで生活していくんだから、全部お母さんに相続してもらえばいいよね。そうすれば相続税もかからないって聞いたし」と弟さん。
松本さんも「確かにそれが一番シンプルかも」と思い、税理士に相談にいらっしゃいました。
「先生、全部母に相続させれば相続税ゼロになりますよね?」
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配偶者の税額軽減とは? まず制度をおさえよう
配偶者の税額軽減とは、亡くなった方の配偶者が相続した財産について、一定額までは相続税がかからない制度です(相続税法19条の2)。
非課税になる金額は、次のどちらか大きい金額までです。
配偶者の税額軽減 非課税枠
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1億6,000万円(遺産がこの金額以下なら、全額を配偶者が相続しても相続税はゼロ) -
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配偶者の法定相続分(遺産総額の1/2)(遺産が多く、1/2が1億6,000万円を超える場合はこちらが上限)
松本さんのケースでは、遺産が8,000万円なので、全額をお母様が相続しても1億6,000万円の枠内に収まります。つまり、今回の相続ではたしかに相続税はゼロになります。
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問題は「その次」 二次相続という大きな落とし穴
「では全部お母様に相続させましょう」と決める前に、もう一つ考えてほしいことがあります。それは、お母様が亡くなったときの相続(二次相続)です。
一次相続でお母様がすべてを相続した場合、お母様の財産は8,000万円になります。お母様が亡くなったとき、この8,000万円を松本さんと弟さんの2人で相続することになります。
一方、最初から法定相続分通り(お母様1/2・子どもたち各1/4)に分けておくと、どうなるでしょうか。
✗ 全部お母様に相続させた場合
お母様の取得:8,000万円
一次相続税:0円
二次相続税:約470万円
一次+二次 合計:約470万円
✓ 法定相続分通りに分けた場合
お母様4,000万円・子ども各2,000万円
一次相続税:約175万円
二次相続税:0円
一次+二次 合計:約175万円
【なぜ二次相続税が0円になるの?】
お母様の取得額4,000万円が、二次相続の基礎控除(3,000万円+600万円×子2人=4,200万円)を下回るため、課税対象がゼロになります。※御母様がもともと保有していた財産が無いものと仮定。
「全部母に渡せばゼロになる」と思っていたのに、一次・二次を合計すると最初から法定相続分通りに分けた方が、約295万円も税負担が少なくなるのです。
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では、どう分けるのが正解? 大切な3つの視点
「じゃあ法定相続分通りに分ければいいの?」かというと、それも一概には言えません。遺産分割は税金だけで決めるものではなく、お母様の今後の生活費もしっかり確保した上で考える必要があります。
お母様の今後の生活を最優先に
年金収入だけで生活できるか、医療・介護費用はどう賄うか。まず「お母様が安心して暮らせる金額」を確認してから、残りを子どもへの分割で検討します。
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一次・二次の相続税をあわせてシミュレーションする
今回だけでなく、お母様が亡くなったときの相続税も合わせて試算します。どんな分割が一番トータルで負担が少ないかを、数字で比べることが大切です。
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不動産の扱いは慎重に
自宅をお母様が相続すれば小規模宅地等の特例が使えるケース多いです。一方で二次相続では、子どもが自宅を相続した際に適用できるか(同居・家なき子要件などを満たしているか)により税額が大きく変わります。
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松本さんのその後
松本さんご家族の場合、一次・二次の相続税をシミュレーションした結果、お母様の生活費をしっかり確保しながら、お子さんたちにも一部を相続していただくプランにまとまりました。
今回の一次相続では多少の相続税が発生しましたが、二次相続での負担が軽減され、合計では全額をお母様に相続させた場合より税負担を軽くすることができる見込みです。
「全部母に渡せばゼロになると思っていたのに、子どもたちにも相続してもらう方がよかったなんて。自分たちだけでは絶対気づけなかった」と松本さん。
配偶者の税額軽減は確かに心強い制度ですが、「今回の税金」だけを見て判断すると、将来のご家族の負担が大きくなることがあります。一次相続こそ、二次相続まで見据えた設計が大切なのです。
📋 まとめ
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配偶者の税額軽減は1億6,000万円まで非課税になる強力な制度ですが、申告なしには使えません -
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全額を配偶者に相続させると、二次相続での税負担が大きくなることがあります -
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最初から法定相続分通りに分けることで、二次相続税がゼロになるケースもあります -
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「今回だけ」ではなく「家族全体の将来」を見渡した分割設計が、ご家族への本当の備えになります。
★ 「うちはどう分けるのが正解?」と思ったら
配偶者への相続は、今だけでなく将来まで考えた設計が必要です。
一次・二次のシミュレーションは、ぜひ一緒に確認しましょう。
たかやまあゆみ税理士事務所 女性相続support
税理士 たかやまあゆみ
相続専門の税理士として、相続・事業承継をサポート。「難しい税務をわかりやすく」をモットーに、多くのご家族の相続に寄り添っています。